理事長 志々田 裕介

【基 本 方 針】
輝く個性が調和するまちの創造
【スローガン】
和を以って貴しとなす
【所 信】
はじめに
2018年7月8日、私はそれまで培ってきた価値観を大きく変える経験をした。西日本豪雨災害である。連日降り続いた記録的な大雨によって、結婚を機に移り住んだマンション目前にあった川はみるみるうちに氾濫し、山からは大量の土砂が流れ込み、さらには少し離れた場所にあったはずの民家までもが目の前を流れてきた。当たり前にあったはずの日常の景色が一瞬のうちに惨状と化したのである。復旧活動時においても、集合住宅にはなかなかボランティアは派遣されず、マンションの住民たちのみで土砂撤去を行う必要があり、私たちはみな数日間にわたり敷地外に出ることさえ叶わなかった。
しかし、その絶望的とも思える状況下で、私はこれまで経験したことのない人の温かみを感じることとなった。復旧に向けて連日共にあくせくと土砂を撤去する作業の間に、私たち住民同士には心と心の「つながり」が生まれたのである。災害前は会話どころか挨拶することさえ少なかったが、それをきっかけに当たり前に挨拶をし、会話をするようになった。仕事の悩みを相談し合ったことも、お互いの生まれ故郷を語り合ったこともあった。今では多くの住人たちが私の子どもたちのことを我が子のように可愛がってくれている。いつかはもっと便利な地域に引っ越したいと考えていた私だったが、気が付けばこの温かい暮らしを手放したくないと思うようになった。
私にとって「まち」とは人と人との「つながり」である。外観、思考、経験、どれをとっても人は百人百様であり同じ人など存在しない。「まち」とは、それら自分とは違う人々を受け入れ、そして調和することで魅力が高まる場所であると私は思う。
しかし近年、社会環境の変化により人と人との「つながり」が希薄化してきており、一昔前と比べて「まち」の魅力が低下しているように感じている。私は、呉青年会議所の理事長を務めるにあたり、人情味あふれる「つながり」の創出強化をコンセプトにしたアプローチでこの「まち」を魅力あふれる場所にしていきたい。
地域コミュニティの創出
人間関係の希薄化を招いている大きな原因の一つとして、地域社会との交流機会の低減が考えられる。私が子どもの頃には、お祭りや町民運動会など、地域の親睦行事に参加することで人間関係の構築・維持がされていたように思うが、近年、人口減少や高齢化、ライフスタイルの変化によって、それらのつながりは失われつつあるように感じている。さらには、個人主義の拡大も相まって地域の住人同士が触れ合う機会はますます少なくなっている。そのため、一昔前までは、当たり前にできていた共助の関係が失われているように感じている。
例えば、小さな子どもが迷子になっていても不審者扱いされるのを恐れて声を掛けることができない。お年寄りが重い荷物を抱えていても迷惑がられる可能性を感じて声を掛けることができないなど、住人同士で助け合う、支えあう関係は失われつつある。
このような状況に対して、住民同士の「つながり」をつくる取組を展開したい。住民同士が交流を深めるきっかけをつくり、ふれあいを通してお互いの理解を深めてもらいたい。日常的なちょっとした困りごとを助けあいや支えあいで解決する関係を各地域で構築し、呉のまちに住む人が皆安心して住み続けることができるまちにしたい。
若者のつながりの創出
2020年に発生した新型コロナウイルス感染拡大の影響により、人との関わり方は大きく変化した。人との会話の中で関係を深めることができていた日常は、人と会うこと自体が難しくなった。若者の学生生活においても、オンライン授業の実施、部活動や課外活動の中止により、所属するコミュニティが今までの様に人間関係を作るきっかけを提供できていない。その結果、若者が友人を作る機会が少なくなっていると感じる。友人は、日々の小さな悩みから人生の大きな決断まで相談できるかけがえのない存在である。悩みを一人で抱えてしまう学生の増加により、自殺者が大きく増加したという文部科学省の調査結果もあるほどである。
そこで、共通の目標を持った若者が集まり「つながり」をつくる取組を行なう。目標を達成するために、自分の考えを積極的に発信し、お互いを理解する大切さを知ってもらう。自分とは違う考え方を持つ人も、目標達成のためにはその存在が大切だと気付く。こうしてつくられるつながりは、単なる仲良しではなく、お互いを信頼できるものである。若者が自分の意見を持ち、強くつながり、協力できる環境により、呉のまちを活気あるまちにしたい。
メンバー全員が関わる団体の強化
人とのつながりは素晴らしいものであり、団体の魅力とは同じ目的を持った多くの人とつながれることである。私自身、呉青年会議所に入会することで、多様な考えや価値観を持つ多くの仲間と出会い、共に活動することで大きく成長できた。多くの人が集まる団体となることで、呉青年会議所の魅力はさらに高まる。しかし、仲間というのは勝手に増えてゆくものではない。40歳までという期限のある活動を行なう青年会議所において、拡大活動を止めることは、会員減少、すなわち団体の魅力減少と直結する。
団体の魅力を維持、向上させるために、メンバー全員が拡大に対する熱意を持ち、たくさんの若者と会うことで新しいつながりを作る。そして集まった仲間に多くのメンバーが関わり、人とのつながりをしっかりと感じてもらうことで仲間となり、より力強い活動を行なえる団体になる。
活動する「人」を知ってもらう広報
人とのつながりは、人がものを選ぶ意識にも影響している。一昔前と比べて、様々なものが大型店舗やネットでどこでも簡単に手に入るようになった。その結果、購入する人は「何をどこで買うかより誰から買うか」を重要視するようになっている。大切なものを購入する時、そのもののデザインや質、値段だけでなく、その製作者の製品に対する想いや、売り手の製品への愛情、熱意がものを選ぶ大きな要因になっている。
私はこの「人」の要素で呉青年会議所の認知を広めたい。設立以来70年超にわたり、呉のまちのために活動を続け、多くの呉市民と関わってきた呉青年会議所という団体は、人によって作られている。そしてその活動は、意識の高いスーパーマンや感情の無いロボットが行なっているのではない。時に悩んだり、挫折したりしながらも、それぞれ想いを持った人が行なっているということを知ってもらうことにより、より深く、身近にこの団体を認知してもらい、地域での役割を広げることができる。
過去から学び、未来を考え団結する
近年の呉青年会議所は、全国にある他の青年会議所同様、若手メンバーの減少に伴い、平均在籍年数が減少傾向にある。また、呉青年会議所の歴史や伝統を深く知る歴の長いメンバーの卒業による減少から、今まで当たり前に学ぶことができていた環境が大きく変わってゆくと考える。過去に活動してきたメンバーとつながり、関わることができる機会が必要である。また一方で、現役メンバーの属性や活動に対する考え方も多様化しており、これまでの踏襲が必ずしも正解とは言えない時代になっている。自らが今後の活動の方向性を模索しながら前に進めていかなくてはならない状況において、必要とされるのがチームワークである。メンバー同士がしっかりと交流し、共に未来を考え団結する環境を作る。切磋琢磨しながら、各メンバーがこれまで以上のパフォーマンスを活き活きと発揮し、団結してまちのために活動する組織となる。
終わりに
「和を以て貴しとなす」ということわざがある。単にみんな喧嘩せず仲良くしようというだけでなく、しっかりと話し合い、向き合ってお互いを理解し、調和することが大切だという意味を持つ。人にはそれぞれ生まれ育ってきた環境があり、そこから得た考え方や価値観がある。この唯一無二のその人らしさこそが何よりも魅力的である。そして、人が集まるまちで、その人らしさが溢れ、「つながり」を持ちながらお互いを信頼、尊重し、支え合いながら住み続けられるまちこそが理想のまちである。
様々な「人」によって70年以上続いている呉青年会議所が、多くの仲間と団結し、呉のまちの「人」をしっかりと輝かせ、「つながり」を作ることができるよう、力強く活動してゆく。
第71代理事長 志々田 裕介