JCで一皮むけた経験

「本人が望みさえすれば、いくらでも良質な経験が手に入る」。これは、青年会議所運動の 良さの一つと言える。「良質な経験」とは、より情感豊かに表現すると、「一皮むける経験」と 換言できる。この度、我々は、諸先輩方の「J Cで一皮むけた経験」に焦点を当て、五〇人の方にインタビューを行った。本書は、その結果をまとめたものである。

ここで、「一皮むける経験」について、読者の方とイメージを共有しておきたい。この言葉は、南カリフォルニア大学のM. McCall 教授が、著書The Lessons of Experience の中で Quantum Leap Experience(量子力学的な跳躍となった経験)と表現した概念を、金井壽宏氏(神戸大学大学院教授)が意訳したものである。同氏によると、原語には『人の成長は、漫然 と漸進的にずっとゆっくり進むのではなく、ここぞというときに大きなジャンプがある』というイメージが込められている。

本インタビューでは、そのニュアンスを踏まえ「今、振り返ってみると、あのときの経験は 大きかった。もしあの経験がなければ、今の自分は随分と違っていたかもしれない」といった経験を語ってもらった。そして、「その経験を通じて、どんな気付きや学びがあったのか。また、現時点から見て、当時の経験にどんな意義があったのか」を内省いただき、それを言語化 してもらった。

諸先輩方は、語るに値する豊かな経験を蓄積されている。それは、呉J Cにとって一つの財産と言っても過言ではない。しかし、その多くは、諸先輩方の記憶の中に留まり、現役会員は知る由もないというのが、半ば実態である。我々は、諸先輩方の「J Cで一皮むけた経験」をドキュメント化することで、その恒久的な伝承を試みた。

そもそも人は、抽象的な規範論よりも、具体的な「物語」の方が心に響く。例えば、「事をなすには、仲間との協働や仲間の支えが欠かせない」とだけ言われても、それを一つの示唆として受け止め、自らの日常の文脈に落とし込む人は、あまり多くはいないだろう。逆に、そのような気付きを得るに至った具体的なエピソードと共に、経験者にとっての教訓や学びが豊かに語られるとき、聞き手の「聴く耳」は、より大きく開き得る。

「J Cで一皮むけた経験」は、個別具体的なエピソードであり、現役会員にとって、感情移入がしやすいはずだ。また、対象となる「物語の主人公」は、我々と同世代であることから、その点でも共感を得やすいと思われる。現役会員は、本書に収められた各々の「物語」に内在する教訓や学びをより豊かな文脈のもと、知ることで、今後、類似の出来事に遭遇したとき、それらを有用な糧にすることができるだろう。

また本書を通じて、「人は仕事経験以外でも一皮むけ得ること」、そして「J Cにはその機会がふんだんに存在すること」が理解いただけると思う。もちろん、J Cを経験した人であれば、それは分かりきったことかもしれない。しかし、ややもすると、それは「経験してみないと分からない」といった言葉で片付けられがちである。本書では、その言語化を試みた。その 点においても、本書の意義は小さくないと考える。
本インタビューは、インタビューを受けた先輩が次のインタビュー予定者を指名・紹介するというリレー形式で行った。リレーの本数は、世代の偏りを回避するため、全部で六本設けた。その結果、ラグビーボールがどこへ転がっていくのか分からないのと同様、インタビューイーの選定は、予測のつかない展開を見せた。そのため、五〇人の顔ぶれは、バラエティーに富んだものとなったと思う。

但し、インタビューは当初から五〇人までとしていたため、諸先輩方の「JCで一皮むけた 経験」が本書に網羅的に収められたわけではない。貴重な経験をお持ちでいながら、お話を伺えなかった諸先輩方には、この場をお借りしてお詫び申し上げたい。本書の発行がきっかけとなって、色々な場で諸先輩方の「J Cで一皮むけた経験」が語られるようになることを願ってやまない。また、現役会員には、是非とも、諸先輩方の話を積極的に傾聴していただきたい。 それによって、本書でなし得なかった「網羅的な伝承」が可能になると考える。

最後にインタビューにご協力いただいた五〇人の諸先輩方に心より感謝申し上げたい。過去の経験の意味づけという作業を通じて、諸先輩方にとっても新たな発見があったとすれば、この上なく幸いである。なお、「物語」に内包された面白さが、十分に表現しきれていないとしたら、それは聞き手・書き手の力不足によるものである。その際は、今後の成長を誓うことと引き換えに、ご容赦いただきたい。

二〇〇七年九月
LOMコミュニケーション向上委員会 委員長 堀口悟史

この「JCで一皮むけた経験」は現役会員向けに作られた書物でしたが、これから入会を考えている方にも大いに参考になると思い、OBの許可を得てインターネット上でも公開させて頂きました。